2012年11月22日

手袋その1

 きつねの親子の住む森に冬がやってきました。初めて雪を見た子ぎつねは、日の光が反射して目に何かが刺さったと思い、母ぎつねのもとへころげ込みます。何も刺さっていなかった子ぎつねは外に遊びに行き、木の枝から落ちてきた雪だまりをかぶってしまいました。


 子ぎつねは洞穴へ帰り、「お手々がちんちんする」と母ぎつねに訴えます。母ぎつねは、夜になったら人間の町に行って、手袋を買ってあげようと思いました。


 町の灯が見える場所までくると、母ぎつねは、かつて人間の町でひどい目に遭ったことを思い出し、子ぎつねを一人で町へ行かせることにしました。子ぎつねの片手を、人間の手に変えて、白銅貨を2枚持たせます。戸をたたき、こんばんはと言えば、戸が少し開くので、人間の手を出して、「この手にちょうどいい手袋頂戴」と言うに聞かせ、きつねのままの手を「出しちゃ駄目よ」と念を押しました。


 町に初めて来た子ぎつねが、戸をたたくと、母ぎつねから聞かされていたとおり、戸が少し開きました。しかし、家の中からもれてくる光の帯がまぶしくて、きつねのほうの手を出してしまい、「このお手々にちょうどいい手袋下さい」と言いました。


 「先にお金を下さい」との声がして、子ぎつねは、白銅貨を渡しました。店の人間は、白銅貨を鳴らすとチンチンと良い音がしたので木の葉ではなく本物のお金だと思い、手袋を売ってくれました。


 子ぎつねは、母ぎつねから人間は恐ろしいと聞かされていましたが、人間は「恐ろしくないや」と思いました。でも、人間はどのようなものか見たいと思いました。ある家の窓の下を通りかかったときに、人間の母親が子どもを寝かしつけるやさしい声を聞きました。子ぎつねは、母ぎつねが恋しくなって、跳んで帰りました。


 子ぎつねは、まちがえてきつねの手を出してしまったことを母ぎつねに話してきかせました。母ぎつねは、「ほんとうに人間はいいものかしら。ほんとうに人間はいいものかしら」とつぶやきました。




手袋その1

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